2026/6/18
交差点で足止めを食らうのは、誰しも気分の良いものではない。先を急いでいる時ならなおさらだ。
そんな時、目の前の歩行者信号が「青点滅」を始めたら、あなたはどうするだろうか。おそらく大半の人が、一段ギヤを上げて駆け足で横断歩道に飛び込むのではないかと思う。
しかし、これは明確な道路交通法違反(施行令による進入禁止)である。青点滅の本来の意味は、「次の赤に備えて急いで渡れ」ではなく、「新たに横断を始めてはならない」なのだ。
なぜ、これほど危険なルールが日常的に無視されているのか。そこには「先を急ぎたい」という主観と、「これくらいは良いだろう」「みんなやっているし、今まで事故に遭ったことはない」という根拠のない甘えがある。歩行者も、右左折してくる車も、互いに「早く行きたい」という主観で動くからこそ、そこに一瞬の死角が生まれ、重大な事故につながる。ルールは歩行者を不便にするためではなく、その命を守るために存在している。
そしてこの「これくらいは良いだろう」という心理は、形を変えて、そのまま企業の組織風土にも忍び込んでくる。
ビジネスの現場でも、私たちはしばしば似たような誘惑に直面する。
「今回だけのイレギュラーだから」「短期間の仮設対応だから」「コストと時間を優先したいから」――。並べられる理由は、交差点を駆け出す歩行者の心理と全く同じである。
しかし、コンプライアンス違反に「常設」も「仮設」もなければ、「今回だけ」という免罪符も存在しない。安全や規律のためのルールを、目先の効率や主観で都合よく解釈して踏み越えてしまうこと。それこそが、まさに組織の「青点滅」が始まっているサインなのだ。
今の時代、細かいことにいちいち襟を正し、法律や規律との整合性を確認する作業は、タイムパフォーマンス(タイパ)や時短の思想に逆行するように見えるかもしれない。現場でうるさい指摘をする人間は、煙たがられ、嫌われるのがオチだ。
だが、その「うるさい確認」というブレーキを失った組織がどうなるか、私たちは数々の企業不祥事で嫌というほど見てきたはずだ。「これくらいは」という一歩の踏み出しが、いつしか麻痺を生み、組織全体の倫理観を蝕む致命的な風土へと育っていく。
日常において、ルールを破っても問題が起こる確率は、確かに低いのかもしれない。普段は何事もなく通り過ぎてしまう。しかし、万が一、そこに問題が起きてしまった瞬間、スポットライトが当たるのは「いかに効率的だったか」ではなく、「明確な規律違反があった」という事実である。その一瞬で、企業が長年築き上げてきた信頼は一気に失墜する。
あなたの会社にも、「これくらいはいいよね」という青点滅の横断が常態化してはいないだろうか。
特に経営トップに立つ人間ほど、現場の「敏感すぎる」という声を「神経質だ」と一括してはならない。トップの仕事は、目先の時短やコストカットではなく、将来の経営に致命的な悪影響を及ぼさないかを冷静に見極め、会社の資産である「信頼」を守り抜くことなのだから。
(文/山田郁二)