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スーパーの棚に並ぶポテトチップスの袋が、モノトーンに染まった。中東情勢によるインク不足という予期せぬ事態を受けたカルビーの決断は、有事の対応として世間の耳目を集めた。広告戦略としては一つの成功と言えるだろう。しかし、一人の買い手としてその前に立ったとき、私たちはある根源的な問いに直面する。「それは、おいしそうに見えるだろうか?」

食品において、色は単なる装飾ではない。特にポテトチップスのようなコモディティ商品にとって、暖色系のパッケージやシズル感あふれる写真は、消費者の食欲を刺激し、コンマ数秒で「購入」へと導く最強のトリガーである。光害から中身を守るという遮光性の機能を担保しながら、いかにおいしさを視覚的に伝えるか。今回の白黒パッケージは、その「おいしさの方程式」をあえて手放した挑戦的な試みであった。

一方で、この視覚的な訴求を全く別の角度から極めているメーカーがある。ポテトチップス専業の「菊水堂」だ。

菊水堂のパッケージは、驚くほど潔い「透明」である。アルミ蒸着による遮光も、食欲をそそる派手なグラフィックもない。ただ、黄金色に揚がったチップスの姿がそのままそこにある。かつて三重県のスーパーで、ある店主が自分が本当に欲しいものとして取り寄せ、売り場に並べたことで爆発的に売れたというエピソードがある。その時、消費者の心を動かしたのは「製造から三日以内」という鮮烈な鮮度の情報と、それを裏付ける透明な袋越しの輝きだった。

量販メーカーにとって、透明な袋はリスクでしかない。全国津々浦々の棚で数ヶ月の賞味期限を保証するためには、光を遮断し、酸化を防ぐ堅牢な防壁が必要だからだ。しかし、菊水堂はこのリスクを「鮮度の証明」へと転換させた。発送日を製造日に合わせ、受発注と物流を最短距離で結ぶ。在庫を持たず、作りたてを店頭に送り込む。この「時間の鮮度」を可視化するための透明パッケージは、もはやデザインを超えた一つのビジネスモデルと言える。

「おいしく見えること」を追求した結果、カルビーは機能的な防壁(袋)に彩りを載せ、菊水堂はその防壁を透明にして鮮度を露わにした。アプローチは対極だが、どちらも「消費者が手に取る瞬間の納得感」を追求している点では共通している。

買い物という日常の行為の中で、私たちは無意識に作り手の哲学を読み取っている。インクが削ぎ落とされた白黒の袋に時代の混迷を感じ、透明な袋の中に作り手の誠実さと職人気質を見る。たかが袋、されど袋。その一枚の包材には、効率と品質、そして「おいしさ」という目に見えない価値をどう届けるかという、終わりのない探求が詰まっている。

(文/山田郁二)