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本日、46年勤め上げた会社に退職願を提出した。18歳で入社し、今年の10月で65歳。節目の年を迎え、長年身を置いた組織から一歩外へ踏み出す日となった。

会社を去ることを意識し始めたのは55歳の頃だ。当時から強く感じていたのは、「自身にある情報やノウハウを、いかに次世代へつなぐか」という課題意識だった。カリモク60ブランドでは、2002年の立ち上げの背景にある思想をスタイルマガジンにまとめる作業を進め、2020年にはコロナ禍を機に家具選びのノウハウを伝えるYouTube動画の制作を開始した。店舗設営などのマニュアル化にも取り組んだ。

しかし、プレイングマネージャーとして実務を抱え続けるうちに、ズルズルとこの歳まで来てしまったのも本音である。

責任あるポジションは、自ら降りることで初めて次の人がその席に就ける。仕事ができるから役職に就く側面もあるが、大抵は「役職に就くことでやらざるを得ない環境」が人を育てるのだと、我が身を振り返っても思う。いつまでも自分が役職にしがみついていれば、どれほど優秀な後輩がいても機会を奪ってしまう。事業を継続させるには、次の世代が自ら背負い、成長していくしかない。だからこそ、役職を降りたいと考え始めたのが55歳だった。

だが、役職を降り、会社を辞めたらどうなるのか。そこには当然、不安が付きまとう。

肩書がなくなれば、ただの人だ。相談に来る人はいなくなり、偉そうに意見を述べたところで耳を傾けてもらえることもない。組織の看板を外したとき、自分には何が残るのか。

そこで辿り着いたのが、名刺代わりとなる「出版」だった。培った知見を社内にとどめず、広く社会に役立てたい。自費出版では名刺としての信頼性に欠けると考え、第三者である出版社のフィルターを通すことにこだわった。幸いにもご縁に恵まれ、今年の秋には一冊の本として世に出せる運びとなった。人のご縁の尊さを改めて思い知らされる。

以前、セミナーで耳にした「新しいことを始めるには、まず手放すこと。無くさなければ新しいものは迎えられない」という言葉が、今まさに胸に染み入る。退職願を出した今、心にあるのは清々しい「心の断捨離」の感覚だ。

11月からは個人事業主として活動を始める。Webサイトの構築をはじめ、準備は着々と進んでいる。新規案件の獲得に向けて動くプロセス自体が、実に面白い。自分ならどう課題を解決できるかを考え、提案する。選考で見送られることもあるが、それも場数の一つだ。

何より、家具というジャンルに限らず、これまで培ってきた経験とスキルで課題解決の策を巡らせられる喜びに満ちている。組織の中にいては分からなかった自身の価値を、自分の足で歩くことで再発見していく。そんな期待を胸に、新しい一歩を踏み出したい。

(文/山田郁二)